ETFはどういう仕組みで運用されているのか、投資する際にどのような点に注意する必要があるのかなど疑問に思うことはあるとは思います。
本稿では、ETFに関わる登場人物の整理とそれらがどのように関係しているのかを整理します。様々な関係者がいる中でいかに容易にETFを購入できるような仕組みになったのかを紹介します。
ETFとは?株式投資や投資信託との違いは何?
ETFの仕組みのついて解説する前に、そもそもETFとはいったい何なのか、ほかの投資方法との違いや特徴について整理しておきましょう。
ETFとは指数に連動するように連動する投資信託の一種
ETFとは投資信託の一種になります。投資信託とは日経平均株価や東証株価指数といった特定の指数に運用成果が連動するように運用されるものです。例えば日経平均株価の上昇に併せて連動しているETFの価値も上がるような運用を目指します。
さらに、投資信託を始めとしたETFでは、複数の投資家から集めたお金を基にして、投資運用会社が個別株式を選定・売買といった運用を実施します。個別株式への投資では花王やソフトバンクといった銘柄に対する売買取引になります。しかし、ETFへの投資を行なうだけで、複数の銘柄に対して取引されることになります。
投資信託や個別株式と比べたETFの特徴とは?
ETFと投資信託の違いは、取引所への上場の有無になります。上場しているETFでは、個別株式のように取引ができる特徴があります。個別株式のように取引ができる特徴は、反面として自身で売買を行なわなければならないため、自動積立投資ができない欠点を持っています。ただ、最近では、株式累投(るいとう)投資の対象に選定できることもあります。
個別株式への投資と比べて、ETFへの投資は分散されているため、リスクが低いという特徴があります。反対に、個別株式投資での最大リターンと比べると少ない欠点を持っています。特に、投資運用会社を間に挟むため、その運用コストが絶対的に引かれてしまいます。ただ、一般的な投信信託と比べるとそのコストは少ないことが多いです。
ETFの仕組み:2つの市場とは?
ETFの仕組みを簡潔に示したものが以下になります。

ETFには大きく、発行市場と流通市場があります。発行市場とは、主に投資運用会社が当該ETFを運用するために利用する市場になります。他方の流通市場とは、一般投資家がETFを売買する市場になります。これらの登場人物やそれらの関係について次で説明していきましょう。
発行市場
投資運用会社が、証券会社等の指定参加者からの株式等をETFに組み込む、反対に組み入れられた株式等を資金に交換する場のことを発行市場といいます。発行市場のことをプライマリー市場と呼ぶこともあります。
主な登場人物は投資運用会社と、指定参加者と大口投資家の3つです。投資運用会社とはETFを運用する会社で、対象指数に連動するように株式等の組み入れや資金への交換を担います。指定参加者とは大口投資家と投資運用会社との間を仲介する証券会社です。大口投資家とは機関投資家といった一般投資家とは異なり、多額の売買が対象になる投資家のことです。
なお、投資運用会社から指定参加者へのETFを発行する行為を設定、反対にETFを投資運用会社に戻す行為を交換(解約)といいます。
この発行市場では基準価格にしたがって取引されます。基準価格とは簡単には、1口あたりの純資産のことです。毎日1回算出されます。ちなみに、流通市場での売買により純資産総額の変動をリアルタイムに推定して算出したインディカティブNAVと呼ばれる価格もあります。こちらは市場公開期間中にのみ算出されるのが特徴です。
流通市場
一般投資家が、証券会社を通して証券取引所にて発行されているETFを購入する場のことを流通市場といいます。発行市場と比べ、流通市場のことをセカンダリー市場と呼ぶこともあります。
主な登場人物は一般投資家と、証券会社と証券取引所の3つです。一般投資家とは、ETFの売買を行なう人々のことになります。証券取引所とは東京証券取引所や大阪証券取引所といった、ETFの売買を担当するところです。この一般投資家と証券取引所の仲介を担うのが、証券会社になります。SBI証券や楽天証券などで、こちらについては馴染み深いのではないでしょうか。
この流通市場にて取引される価格のことを取引所価格、ないしは市場価格と呼びます。投資信託と比べETFは株式市場に上場している特徴があると述べた通り、市場公開期間での売買に伴い、取引所価格が変動します。
ETFにおける3つの価格とは?
発行市場と流通市場の2つにて売買されるETFには、それぞれに応じた価格があります。発行市場での基準価格、流通市場での取引所価格(または市場価格)、加えてインディカティブNAVの3つの価格について見ていきましょう。
基準価格とは
基準価格とは、発行市場にて定まる価格のことです。「純資産総額を発行済み口数で除算」した値になります。純資産総額には、ETFで有している株式の時価評価額に配当金等を加え、運用会社での運用・管理費を引いたものになります。
基準価格は、1日に1回算出され、夕方に発表されます。夕方になるのは、株式市場が終了するのを待つためです。株式の時価評価額を算出するためには、当該銘柄の株価を利用する必要があります。基準価格では当日の引け値を時価評価算出に利用します。
取引所(市場)価格とは
取引所(市場)価格とは、流通市場にて定まる価格のことです。これは売買が実際に行われているので、需要と供給によって決まる特徴があります。流通市場で需要が高まると取引所価格も高まり、反対に供給のほうが多くなると取引所価格が下がることになるでしょう。
取引所価格は、流通市場での売買ごとに変化していきます。個別株式での終値と同様に、市場公開終了時に終値として当日の価格を確定します。
インディカティブNAVとは
インディカティブNAV(NAV=Net Asset Value)とは、ETFの基準価格を逐次推定した価格のことです。基準価格は1日に1回しか算出されません。しかし、ETFが有している銘柄の株価変動に伴い、理論上の基準価格も変化しています。この差を埋めるために推定基準価格としてインディカティブNAVがあります。
市場公開中に一般投資家が容易にETFの純資産総額を把握できるようにすることで、取引の活性化を促す目的としてインディカティブNAVの導入・公開が開始されました。
基準価格と取引所価格とインディカティブNAVの関係とは?
ここでは先に紹介した基準価格と取引所価格とインディカティブNAVの3つの価格についての関係を見ていきます。インディカティブNAVは現時点の基準価格を推定した値であるため、残りの取引所価格と基準価格、取引所価格とインディカティブNAVの2つの関係について整理しましょう。
取引所価格と基準価格の関係
一般投資家にとってETFを購入する際の価格は、取引所(市場)価格になります。では、あるETFの価格が1万円とした際、これはお買い得なのでしょうか?これ単体ではわからないですよね?何かと比較する必要があります。この一つとして、ETF自体の価値を意味する、基準価格が参考になります。
基準価格と比較して、取引所価格が割高なのか、割安なのかを判断します。ちなみに、割高のことをプレミアム、割安のことをディスカウントと呼ばれることもあります。
ただし、取引所価格と基準価格での算出時期のずれが存在することに注意が必要です。取引所価格では流通市場における需要と供給が均衡したところで形成される連続的な価格になります。しかし、基準価格では、直近の引け値での株価を元に算出される離散的な価格です。この二つの価格には算出時期のずれが存在しています。
取引所価格とインディカティブNAVの関係
取引所価格と基準価格との比較の欠点を補うように、現時点での基準価格を逐次推定するインディカティブNAVが登場しました。
この登場によって、一般投資家は算出時期のずれを考慮することなく、より容易に取引所価格とETF自体の価値を比較することができます。
例えば、取引所価格がインディカティブNAVより高い、つまり「取引所価格>インディカティブNAV」の場合、ETF自体の価値より割高であるため、買いを避け・売りを重視する時期と判断できます。反対に、取引所価格がインディカティブNAVより安い、「取引所価格<インディカティブNAV」の場合、ETF自体の価値より割安であるため、買いを重視・売りを避ける時期と判断できるでしょう。
3つの価格比較表
基準価格と取引所価格とインディカティブNAVの3つの価格の関係について以下の表に簡潔にまとめます。
項目 | 基準価格 | 取引所(市場)価格 | インディカティブNAV |
---|---|---|---|
市場 | 発行市場 | 流通市場 | n.a. |
算出頻度 | 1日1回 | 市場公開中の取引ごと | 市場公開中逐次(注) |
特徴 | 保有株価の現在値に基づき算出された価格 | 取引の需給に基づき定まる価格 | 保有株価の現在値に基づき算出された価格 |
注:東証では15秒ごと
需給による基準価格と取引所価格とのずれの修正方法
ETFは、投資運用会社が保有株式の組み換えを実施し基準価格を変動させることで、特定の指数に連動されるように運用します。しかし、この基準価格よりも、取引所(市場)価格が高く、ないしは安くなった際にはどのようにしたらいいのでしょうか?
ETFには流通市場での需給に応じて、発行済み口数を増減させる行為、設定と解除があります。ここでは、この設定と交換を利用して、価格のずれを修正する仕組みについて整理しましょう。
基準価格が取引所価格より安くなった場合
ここでは、流通市場での需要が高まった、つまりより多くのETFを保有したいと考える一般投資家が増えた場合です。言い換えると「取引所価格>基準価格」の場合です。
この場合、指定参加者は次の3つのいずれかを実施することで基準価格と取引所価格の均衡を図ります。
- 組み込まれている株式を市場で購入する:個別銘柄の株価が上昇することで、当該銘柄の時価総額引いては基準価格を増加させる狙いです。
- 購入した株式をETFに設定する:ETFでの発行済み口数を増加させる代わりに、次のETF売却の口数を増やす狙いです。
- 保有しているETFを売却する:「取引所価格>基準価格」では売りを重視する時期であり、株式設定により増やした口数を売却させ取引所価格を下げる狙いです。
これらの操作を実施することで、売却されたETFの取引所価格が下がり、購入された株式により基準価格が上がることになり、両者の価格が均衡します。
基準価格が取引所価格より高くなった場合
次に、流通市場での需要が少ない、つまりより多くのETFを手放したいと考える一般投資家が増えた場合です。言い換えると「取引所価格<基準価格」の場合です。
この場合、指定参加者は次の3つのいずれかを実施することで基準価格と取引所価格の均衡を図ります。
- 流通市場からETFを購入する:「取引所価格<基準価格」では買いを重視する時期であり、購入により取引所価格を上げる狙いです。
- ETFに組み込まれている株式を交換する:ETFでの発行済み口数を減少させる代わりに、次の株式売却での株式を保有する狙いです。
- 外された株式を市場で売却する:個別銘柄の株価が減少することで、当該銘柄の時価総額引いては基準価格を減少させる狙いです。
これらの操作を実施することで、購入されたETFの取引所価格が上がり、売却された株式により基準価格が下がることになり、両者の価格が均衡します。
ずれの修正まとめ
基準価格と取引所価格の価格ずれに対して、どのように修正されるのか、どういった狙いがあるのかを整理しました。一般投資家の観点からすると、実際のところこれらの内容を詳細に知る必要はありません。
大切なのはこれらの複雑な操作と考え方について、発行市場側で担保してくれていることでしょう。この結果、一般投資家では、取引所価格と基準価格(ないしはインディカティブNAV)とを比べて割安か割高かを判断し、投資するかどうかを決めればいいだけです。
ETFの仕組みまとめ
ここでは、ETFの仕組みについて、2つの市場と各登場人物、3つの価格と各価格の関係、需給による価格のずれとその修正方法について整理してきました。ETF全体としては価格のずれがある際どのように修正されるのかなどを詳細にわたって紹介しました。
一般投資家にとって大切なのは、これら複雑な操作や考え方を発行市場側で担保してくれており、投資基準として取引所価格と基準価格(ないしはインディカティブNAV)との比較を見ることでよいということでしょう。
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